東日本大震災と原発事故からの復興の歩みは順調とは言い難い。時間の経過とともに、その記憶が風化していく懸念も指摘されている。東北地方の観光復興もまだ途上にある。
そうした中、東北6県とJRグループがタッグを組み、大型観光企画「東北デスティネーションキャンペーン(DC)」を2021年4月から半年間にわたり繰り広げられることが決まった。
21年は震災から10年の節目に当たる。国の復興・創生期間(16~20年度)の終了直後に“オール東北”で、国内外に東北に目を向けさせる意義は極めて大きい。力を合わせて誘客に努めてもらいたい。
DCの実施期間は通常単県で3カ月だが、東北DCは複数県でかつ半年という長い期間が設定された。東北6県を対象にしたDCは旧国鉄時代の1985年、東北新幹線の上野―盛岡間開通を記念して行われた以来で、JR発足後は初めてとなる。
4月4日、仙台市内で行われた共同記者発表の場で、JR東日本から各県の代表に東北DCの決定通知書が手渡された。知事らもDC成功へ決意を示し、東北観光推進機構の小縣方樹会長(JR東日本副会長)は「画期的なDCで、大いに盛り上げたい。オール東北でこの大きなチャンスを大成功に導き、未来につなげていく」と述べた。
豊かな自然や食、温泉、伝統文化、観光名所など東北各地が持つ多彩な魅力を余すことなく発信してほしい。「キャンペーンエリアが広いことで効果が薄まるのでは」という見方もあるが、各県独自の取り組みと東北全体での取り組みが相乗効果を生むよう、知恵と工夫、協力体制で臨む必要がある。
今年9月に開幕するラグビーワールドカップ(W杯)日本大会では岩手釜石市が試合会場となる。来年の東京五輪では一部の試合が福島市や宮城県で開催されることもあって、多くの来客が見込まれる。
特に、注目したいのは訪日外国人観光客だ。18年の東北6県への外国人延べ宿泊者数は過去最高の約121万人に上り、前年比の伸び率(約26%増)は全国トップとなった。国内全体に占める割合はなお小さいが、それだけ伸びしろがあるということだろう。
国際的な大規模イベントの勢いをDCにつなげ、多くの外国人に足を運んでもらう。そのためには受け入れ態勢の整備が欠かせない。交通機関や宿泊施設などを含めた横断的な連携による仕掛けも必要だ。
21年は国の復興・創生期間を終えて、東北が新たなステージに向かう年になる。東北DCを成功させるべく、観光業界も協力、支援を惜しんではならない。
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